…とりあえず、俺はやっと自分の席を確保し、朝食タイムに入った。
 …もぐもぐ…
 (俺が、好物の目玉焼きを食う音)
 …カチャ…
 (アキが、コーヒーカップをソーサーに置いた音)
 …タパタパタパ…
 (母さんが、ポットからおわんのインスタントスープに、熱湯を注ぐ音)
 …なんだかみんな、さっきの暗い雰囲気を引きずってる。
 静かだ。静かすぎる。
 そしてテレビには、すぐに電波からいなくなりそうな、タレント上がりのアナウンサーもどきがでていた。
 彼女は、『夏を乗り切れ!スタミナラーメン特集』というコーナーで、とある有名店自慢のラーメンを食べている。
「うわ〜、このチャーシュー、ジューシィーでおいしいですよぉ」
 下手なくせにテンションだけは妙に高い、なんともこの場の雰囲気にはそぐわない声が、ダイニングの中を流れて、消えた。
 蝉が今日もじいじいと、飽きもしないで鳴いている。耳につくノイズ。
 …もう限界だ。
 俺は、近くの棚に置いてあったメガホン(何故あるかは不明)を手に取り、大きな声で、
「おしまいっ!!」
と叫んだ。
 もちろん、残り3人はかなりびっくりしたようで、父さんは箸からベーコンを落とし、母さんは持っていたスプーンを落として金属音を響かせた。
 そしてアキも、ひじをついた手に乗せていた自分のあごを、ずるっっと落とした。
「……な、なんなのよ」
 大きな目をさらに丸くして、アキは俺に当然の質問をした。
「もう、こんな暗い雰囲気でモソモソモソモソ飯食うのはやめ!って言う意味だよ。俺が言った事でこうなっちゃったのは謝るけど、だからってひきずんなよな!父さんも母さんも、いつもみたいに、なんかしょうもないことでいいから話せよ。とにかくもう、黙ってんのはナシ!!みんなで話してりゃ、暗い気分なんてふっとぶよ。な?」
そう一息に言った。
 しばらく、みんなはシンとしてしまった。
 そして、口火を切ったのはアキだった。
「…っははは!やっぱアナタ、マサヒロ、おもしろいよ!」
堰を切ったように笑い出した。
 母さんも、
「あんたねぇ、しょうもないはないでしょ!」
といっているが、顔は笑っている。
 父さんのほうを見やると、苦笑交じりに微笑んでいた。
 みんなで顔を見合わせて、吹き出してしまう。
 そうそう。こうでなくっちゃな。
 俺はやっと心からリラックスして、目玉焼きを味わう事ができた。


 さて。無事に朝食も終えた俺は、部活の自主練に出かけようと部屋へ戻ろうとした。
 食事中に、ひとまずアキはうちで預かるという方向が決まり、アキは喜んでいたようだった。
 もちろん、アキの両親は1日もすればここに電話をかけてくるだろう、と踏んでの事だろうけど…。
 椅子から立ち上がり、部屋に上がる階段へ向かおうとすると、アキがついてきた。
 どうやら俺の部屋を見たいらしい。なんてずうずうしいやつなんだ、イエデムスメのくせに…と思ったのだが、あの人懐っこい笑顔で頼まれてしまうと、なんだかいやともいえず、押し切られる形で見せる事になった。俺って…。
階段を上る途中で、アキは
「それにしても、さっきのマサヒロの表情七変化、楽しかったな〜」
とのたまった。ふりかえれば、いたずらっ子のような表情を浮かべている。
「ははっ、自分が原因のくせによく言うぜ」
豪邸ではない俺のうちは、そんな会話をしている間にとっくに2階についてしまった。
 廊下の突き当たり、いまだに小学校で作ったルームプレートがぶらさがっているのが俺の部屋。いつものようにノブを回した。
――その途端、一筋の風が俺とアキの間を通りすぎていった。
「………?」
 窓、開けてったっけ…?
 水色のカーテンがピラピラとはためいているのだけれど。朝、無意識のうちに開けといたかな…
 でも、そんなことよりも、なんかイヤな風だな、と俺は思った。
 根拠なんてない。けど、何か…
「…っ。……何したの?」
 アキも、なんだかイヤそうな顔をしていた。眉をひそめる。
 そして、窓辺に近寄ると、なにごとかを呟いた。
「ん?何?なんていったんだ?」
「…秘密。おばぁちゃんに聞いたおまじない、よ」
「…ふぅん…」
 俺は、別に気にしなかった。
 ただ、アキがその"おまじない"を言ったとたんに、その嫌な感じが消えたから、それ効くな、とだけいった。


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