そして俺は、たいして片付いてもいない(むしろカオスな)部屋を、今朝初めて会ったコにさらけだすハメになった。
6畳のフローリングの洋室…別にゴミだらけとか、そういう汚さはないんだけど。
まぁ、ごちゃついてるって感じか。
もちろん生活上最低限のスペース、机の上の半分とか、ベッドの上とか、そういうものは確保してあるんだけど…。
「普通、本って読んだら戻すものじゃない?」
と、あきれながらアキは、机のすぐ脇の床に立てて並べてあった、現代文の教科書を拾いあげた。
そこは俺の第二の本棚と化している。わざわざブックエンドで倒れないように工夫してあったりして。
「いいんだよ、近いほうが使いやすいから…って、中見るなナカっ!」
…遅かった。
「…ぶっ、高校生のくせに、いまだに著者の顔に落書きしてある………」
アキは、ヒゲにアフロの与謝野晶子とご対面していた。
他にもないか、パラパラとページをめくっている。
俺は慌てて教科書をとりあげた。
「いいじゃんか、授業中のささやかな楽しみなんだからっ」
「でも、本文にはちゃんと書き込みしてあったじゃない。聞いてはいるのね」
妙なところで感心されてしまったが、全くうれしくなかった。
それよりも、次にアキが何を引っ張り出してくるかのほうがよっぽど気にかかったので、入室後1分にして、俺は早々に追い出しを始めた。
「な、部屋ん中見たろ?はい、しゅーりょー。撤収。そもそも普通、男の部屋見たいなんてゆー女の子なんていないぞ…って言ってるそばからベッドの下なんぞあさるんじゃないっ!何もねぇよっ」
アキは、頭をベッドの下に突っ込んで、何かないかと腕でガサガサあさっている。
「ちえ〜、エロ本とかあるのかな〜と思ったのに、全然何にもないじゃん。散らかってはいるけど。つまんないの」
ぶうぶう言うアキ。何考えてるんだコイツは…はぁ。
「…んなもんあるわけないだろうが……しかもそんな超古典的な隠し場所に。もちろんどこ探したってないけどな。ほら、もう出てけ!俺も仕度しないといけねーんだから」
それまで部屋中をひっくり返さんばかりの勢いだったアキが、ピタッと動きを止めて、ゆっくりと振り返った。
顔中に、ものすごくいたずらっ子な笑みを浮かべて。
しまった、と思っても、時すでに遅し。
「へぇ〜、どこに行くの?私もついてきたいな、もちろん連れてってくれるわよね、マ・サ・ヒ・ロ?」
………俺は、またもや押し切られてしまう自分がいることに気付いた。俺ってば、どーしてこんなにアキに対して立場ないんだ…。
そうだよな、そもそもなんで、こんなナレナレシイことをしてくる奴にムカつかないんだろう…?
だがそれは、ほんの少しのわだかまりだったので、アキの
「ほら、じゃあ早く仕度してよ!私出てくからさ」
という言葉にかき消えてしまった。
…ま、別にいっか。
「じゃ、終わったら下行くから」
俺は特に気にも止めず、部屋を出るアキにひらひらと手を降った。そして、今日の部活の自主練に必要なものを選び出し始めた。

俺はできる限り声をしぼって、授業中のヒソヒソ話くらいの声で、リビングのソファーで居眠りしているアキに声をかけた。
「お〜い、準備できたぞ〜。出かけるぞ〜。聞こえてないのか〜?いっちゃうからな〜。後で文句言うなよ〜……よし、寝てるな」
「だーれが寝てるってぇっ?!」
「うわぁぁぁっ?!」
ガバッといきなり飛び起きたアキに驚いて、俺はしりもちをついてしまった。いてて…
アキはそんな俺の窮状などお構いなしにこっちに歩み寄り、俺の髪の毛をぐわしとつかんで顔を向けさせた。
「も・ち・ろ・ん起きてるわよ。置いてこうなんてしてもそうはいきませんからね〜だ」
そういってパッと手を放す。
「く、くっそう…」
何か言い返そうとするまもなく、アキは玄関のほうにさっさと歩いていってしまった。
なんだかあいつに振り回されてばっかだ……ったく。
だけど、不思議とムカつくわけでもなく、むしろ、そのやり取りが案外面白くて、俺はこの状況を、まんざらでもないな、と評価した。


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