玄関で、いつものスニーカーをひっかける。だいぶボロっちくなってきたが、このへんが一番はきやすい。
アキは、俺が仕度してる間に着替えていた。紺のタンクトップに白のキャミを重ねて、下は短い丈の、古着っぽいジーンズ地のスカート。
ちょっと露出過多な気もするが、アキみたいな元気な奴が着ると、そんなに不自然でもない。
俺はと言えば、所詮自主練なので、いつもの白い、えりがだんだんよれっとなってきたプリントTシャツに、これまたいつものジーンズ。そして、着替えと財布とケータイの入った青いリュック。
…まぁ、いたってフツーな格好をしていた。
部活だし。
「そんじゃ、いってきま〜……え、なになに?」
いつもなら、リビングとかキッチンから、返事だけなのに、今日はなぜだかお見送りつきだ。
「夏休みだしな、たまにはと思って」
「ふーん。まぁ別にいいけど。それじゃいってきま〜す」
「気をつけてね、今日も暑いから水分補給忘れないでね」
「わかってるって。じゃあ」
そんなたわいもないやり取りをして玄関を出た。
ドアを開けた途端に、わっと熱気が押し寄せる。
振りかえればアキは、座り込んでスニーカーの紐を結び直している。
玄関にいるのは邪魔だし、ドアを開けっ放しでも家の中が暑くなるので、俺は一人外に出てドアを閉めた。
ちょっと庭の家庭菜園のプチトマトを見ているうちに、アキも出てきた。
「さ、いきましょ!」
そういって、さかさかと歩きだす。
「おい、待てよ!」
俺は慌てて、アキの後ろ姿を追いかけた。
ついさっき俺以外の三人が、真剣な顔で話をしていたことなど、俺に分かるわけがなかった。
視界は、木々の緑と空の馬鹿らしいほど突き抜ける青、そして、見えない日差しに埋め尽くされてしまった。
まったく、今日もうだるような暑さだ。
蝉が命の限りを尽くして、うゎんうゎんと鳴いているおかげで、こっちまで命を削り取られているような気さえする。
「…あつい……」
無意識に口からこぼれだす愚痴さえも、暑くてねっとりとした、真夏日特有の空気にからめとられてしまった。
「暑いって言ってるから暑いのよ。涼しい涼しいっていったら、いくらかしのぎやすくなるわよ」
「んなわけねぇだろって…そんなんで涼しくなったら、パラソニックも西芝も、クーラー売れなくて商売上がったりだっつーの…はぁ……」
俺の夏の神様はクーラーだ。そしてその後ろに輝く後光はかき氷。
この二つがなかったら、俺はこの短い人生をあえなく終えざるを得ない。それくらい、夏場は欠かせない。
まぁ、あっつい体育館が活動場所のバスケ部なんだけど。
俺は、アキと話すのも嫌になってしまう位うだっていたので、それ以上会話は続かなかった。
アキは、そんな俺の態度に飽きたのか、辺りをキョロキョロとしながら歩いている。
お上りさんじゃないんだから、他人様の家を、門の中まで覗きこむなよ…、と思ったが、それを指摘するのも面倒だったのでやめた。
今は一刻も早く、学校に行かなければ。そして部室の扇風機の前でかき氷を食べねば…。
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