さて、気をとりなおして、アキの学校探検の続きでも…あ、そうだ。
「蛍輝、お前も一緒に校内巡りしねーか?」
「校内巡り?」
蛍輝はまた、眉間に皺をよせて聞き返す。
「そ。校内巡り。」
俺は、蛍光灯のついていない微妙な光量の中、無意味に大きく腕を広げながら言った。
「アキのやつが、学校の中を見てみたいってーから、案内しようと思ってたとこだったんだよ。な?」
折角なので、いきなりアキに話を振ってみる。案の定アキは上の空といった感じだったが。
「ふぇっ?!…え、ええ。どんなとこなのかなー…って…思って…ね」
視線を落としつつの、かなりキョドった調子の返事だった。なんかアキのやつ、さっきから変なんだよなぁ。キョドってると思えば、急に黙り込んで考え込んでたり…やっぱり、一朝一夕の付き合いでは、こいつはよくつかめないようだ。
「…っつーわけで、どうせならテンコウセイのお前にも、校内の案内してやろうと思ってさ。まだ校舎の案内とか、全部は聞いてないだろ?今やっときゃ、2学期からすぐ学校になじめるわけだし。どうだ?」
学校になじむ云々は、正直なとこ、ただの口実だった。さっき自分のせいで場の雰囲気を悪くしてしまった以上、なんとか自分で二人を盛り上げて…そんでもって、あわよくば仲良くさせたいなー、とか思ってたんだ。
蛍輝は少しうつむき加減になって、片手を顎にかけながら考え込む様子を見せた。
「別に悪い話じゃないと思うんだけど…」
チラリと上目遣いで言ってみた後で、なんかのキャッチセールスみたいな文句だな、なんてふっと考えた。…まぁ、ある意味俺は、セールスをかけているわけだが。
しばらく黙りこくっていた蛍輝だったが、おもむろに口を開いた。
「…残念だが…」
…ありゃりゃ、やっぱダメか。一応理由を聞いてみると、
「今日は夕方に、久しぶりに会う親戚が来るから、帰らないといけないんだ」
案外普通の理由に、どこか拍子抜けしつつも納得した。でも…
「夕方の用事なら、もうすぐ昼飯だし、せめて昼ぐらい一緒に食べないか?この際だ、おごっってやっからさ!」
それでも蛍輝は難色だったので、つとめてテンション高めで、無理やりながらもアキを促す。
「アキもそうしたいだろ?な?腹へってきただろ?」
だが。
「…う〜ん、私そろそろ飽きてきたかも。帰りたい」
…はぁ?!
思いがけない台詞に、まさに目がテンになった。帰る?!
振り向いて、馬鹿な金魚みたいに口をパクパクさせてしまう。
驚いている俺をよそに、アキはすっかり調子を取り戻したかのようにペラペラとしゃべり始めた。
まとめると、どうやらこのイエデムスメの姫は、この暑さにすっかりお疲れのご様子で、早いとこ従者(=俺かよ!)を引っつれて涼しい場所にお出かけになりたいそうだ。
そんなワガママあるか!…と思ったが、当の本人は
「いいわよ、それなら一人で帰るから」
などと言って口を尖らしている。いくつだよお前…ったく。
「だーかーらー、お前が学校見たいって言い出したんじゃねえかよ!!それをいきなり『帰る』ぅ??ジョーダンキツいぜ」
「あら、マサヒロだって部活しに来たんでしょ?私がいてもしょうがないじゃない」
「いや、それは暑いから……いやいやいやいや、そうじゃなくて!お前の行動の一貫性がだな…」
「マサヒロよりはよっぽどしっかりしてますから」
「何いってんだよ!せっかく俺は、お前と蛍輝のことを考えてだな」
「…その蛍輝クン、もう行っちゃったわよ?」
「あぁ?!」
あわてて振り返れば、確かに蛍輝の姿は無かった。いつのまに…?!
キョロキョロしている俺に、アキはいたって冷静に告げた。
「マサヒロがワーワー言ってる間に、後ろのドアからスッと」
「…って、気づいてたんなら言えよ!!」
「だって私、彼と一緒にごはん食べたくないもーん」
…はぁ、と、俺は今日何度目かのため息をついた。急に汗を知覚して、やたらと熱気を感じてしまう。
まぁ、気づかなかった俺も悪いんだけどさ、それにしても……なんか、こいつには当分振り回されそうだな、と思った。別に無理にコイツに付き合わなくてもいいようなものなんだけど、もしかしたら、こんな状況を面白がっている俺がいるのかもしれない。
なんだか、グダグダになってしまった。とてもじゃないが、こんな状態で部活に行く気にはなれない。ここはアキの提案にしたがって、どっか涼しいところで仕切りなおしといくか。
逸生と駆人に、「悪いけど、色々あったから先出る。ゴメンな」とだけメールしておいて、俺とアキは教室を後にした。
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