その男はひょろっとした長身で街を往く。
真夏でも黒いトレンチコートをはためかせて
真冬でも白いシャツを覗かせて
彼は街を往く。
collector 2
この間の満月の晩に、私は奇妙な夢を見た。
小さいときから、正夢のようなものは見やすいタチだった。けれど、結婚して子供を授かってからは、サッパリ見たことがなかった。
ひどくリアルな空気があって、しかし同時に、物語りめいた現実感のなさも持ち合わせている夢。
昔見た、正夢のイメージによく似ていた。
だから、このひどく浮世離れした話も、もしかしたら世界のどこかで本当にあったことなのかもしれない。
一人の男が、質素なつくりの小屋で暖をとっていた。
外はもうとっくに、冷えた暗闇の支配下。古ぼけたランプと暖炉のチロチロとした赤い炎が、わずかに室内に輪郭と温度をもたらしていた。
温まった空気の乾いた匂いが、ぶわりと男を包んでいる。
男は一人で…いや、違った。
もう一人、人間がいる。
部屋の隅の暗がりから、セミロングの赤毛を二つ結びにした、幼い少女が現れた。白いワンピースの似合う彼女は、彼の隣にちょこんと腰掛けた。
少女は顔に無邪気な笑みを浮かべて、男と何か話している。…いや、少女が一方的に話しかけているといったほうが正しいだろう。
話題に耳を傾けると、少女は男に質問ばかりしていた。名前や年齢、出身地、家族構成から、好きな食べ物、買っていたペットまで……少女はそのひとつひとつに、自分の紹介を織り交ぜながら聞いていたのだが、彼は暖炉を見つめたまま、言葉少なにはぐらかすばかりだった。
少女は少しつまらなくなったのだろうか、それとも、男が何を考えているのかを知りたかったのか、男と同じように、黙って暖炉を見つめてみた。
たいして広くもない室内には、時折、ぱちぱちと薪のはぜる音がする程度。それ以外は全くの静寂の中、二人はただ、ほの赤い暖炉の中を、じっと眺めていた。
なめらかで温和な空気は、いつしか静かに少女を夢見心地にいざなう。
しばらく無言でいた2人だったが、今度は男のほうが、ぽつりぽつりと話し出した。
「僕は、集めているんだ。」
「…何を?」
少女は眠い目をこすりながら応える。
「…僕にも、よくわかってはいない。」
「何よ、それ」
「でも、それは大概、トランクなんだ。」
「トランク…」
「そう、トランク。その中には、いろんな『こころ』が入っている」
「…『こころ』?そんなもの、トランクに入るの?」
「とにかく、入ってる。僕はソレを、ただ集めているんだ」
「でも、どうしてそんなことするの?」
男は少しだけ、少女に気づかれない程度に目を伏せた。
「わからない…わからないんだ。」
「わけもわからずに、ただ集めているっていうの?」
「そう。しかも、いつまでたっても終わりが見えてこない。僕以外の人は、みんな自分のしていることに意味を見つけて終わりを求めていくのに」
そこまで一息に言って、男は、ゆっくり目を閉じた。
「だから」
暖炉の炎はおとなしくはぜて
「僕は」
温度は意思を持って2人を囲んで
「ひとりなんだ」
少女は、そんなの勝手だわ、と反論しようとしたが、実はもう眠くてたまらなかった。
だって私もいるから、2人じゃない…
少なくとも今は、ひとりじゃないじゃない……
次の日、少女の頬に涼しげな風が頬に当たって目を覚ましたときには、もう男の姿は無かった。
あいさつも言わないで…と思った少女は、しかし恨んだりはしなかった。
なぜなら、少女の体には、そっと毛布がかけられていたからだった。
男はトランクを手に、ここではないどこかを歩いている。
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はい、第2弾です。どうでした?
正直長くなりすぎました。ssじゃない!(笑)
まぁ、書き込み具合はほどよいので、自己満足という点からはOKかな(ぇ
ちょっと解説というか補足しますと、ラストで男はちゃんと、少女の『こころ』のトランクを持って小屋を出たんです。
ただ、それをうまく描写に入れられず…なんかラストの妙な1文に落ち着いてしまいました(笑)。
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